numbers読み解くアート

美術作品を紹介していきます。 近現代アートが好きです。


1944


Francis Bacon 'Three Studies for Figures at the Base of a Crucifixion'

フランシス・ベーコン 'ある磔刑の基部にいる人物像のための三習作'

1944


この世のものとは思えない異形の物が描かれている三連画です。ベーコンは多くの三連祭壇画(Triptych)を残しており、彼が宗教的意図を持って作品を制作していたことが伺えます。

描かれた物体は、ピカソの作品や野生動物図鑑等を参考に作られたと言われています。左の人間のような物体は、スピリチュアリズムや心霊体について書かれた研究所の資料、また真中の物体の包帯はマティアス・グリューネヴァルトの「辱められるキリスト」と関係付けられているようです。

 1503

Matthias Grünewald 'The Mocking of Christ'
マティアス・グリューネヴァルト '辱められるキリスト'
c. 1503


ベーコンはこの作品について、ギリシャ神話の復讐の女神であるユーメニデスをテーマとしていると語っています。つまり、この作品は虐げられ怒りに震えている物体が描かれてるのです。右側の物体は口を大きく開け叫んでいるような様子が描かれており、犠牲者の怒りや苦しみが伝わってくるようです。

ここで注目したいのは、作品が制作されたのが1944年、第二次世界大戦中だったことです。すると、この作品と当時大きな勢力を振るっていたナチスとを関連付けることができるかもしれません。ユーメニデスが主題となっていることから、犠牲者の復讐が果たされることを予期させます。


また、ベーコンはこの作品を、チマブーエの「磔刑」と関連付けているようです。彼は、その像を見ていると十字架を這い降りる蛆虫を思い浮かべるのだと言います。

Cimabue,Crucifix

Cimabue 'Crucifix'
チマブーエ '磔刑'
1287-1288

聖人の死の影に潜む蛆虫は、美しく見えるものの影に隠された穢れを感じさせます。ベーコンは、大きなものの影で蛆虫のように扱われる理不尽さ、またそれに対する憤怒や嘆きを描き出そうとしたのかもしれません。



〔参考文献〕
*マーティン・ハマー「SEIGENSHA FOCUS フランシス・ベーコン」 2014、青幻舎
*イェルク・ツィンマーマン「フランシス・ベイコン【磔刑】-暴力的な現実にたいする新しい見方」2006、三元社

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