numbers読み解くアート

美術作品を紹介していきます。 近現代アートが好きです。

Egon Schiele Dead Mother

エゴン・シーレ '死せる母Ⅰ'
Egon Schiele 'Tote Mutter Ⅰ'
1910

こちらを見つめる赤ん坊と、それを抱く生気のない母親が描かれています。赤ん坊と母親の「生」と「死」が強く対比された作品です。
シーレは1910年から1911年にかけて『死せる母』という題名の作品を多く手掛けています。この絵もその一連の作品の一つです。

シーレは、自身のことを、生きながらにして死んでいる人々を豊かにする「永遠の子供」である、と表現したようです。また、母子という関係は、聖母子像を髣髴させます。この赤ん坊は、こちらに目を向け祝福のポーズをしているように見えます。
ここから考えると、この作品はシーレと赤子キリストとを重ね合わせて描かれていると考えられるかもしれません。

この作品とよく似た作品が1911年に描かれています。

Egon Schiele Dead Mother Ⅱ

エゴン・シーレ '天才の誕生(死せる母Ⅱ)'
Egon Schiele 'Tote Mutter Ⅱ'
1911

この絵では、母親の顔がシーレ自身の顔に置き換えられています。また、赤ん坊が胎内に閉じ込められているように見え、これから訪れる死への恐怖と絶望に目を見開いています。 
この作品が描かれた当時、シーレは愛人を妊娠させてしまい、その後中絶手術を受けさせていたようです。この事象が、シーレに、生の儚さと死への強迫観念を強く抱かせ、これらの一連の作品を描かせたのかもしれません。

フロイトの精神分析と関連付ける意見もあります。フロイトは、境界性パーソナリティ障害の母親に育てられた子は、生よりも死へと向かっていくと語っていたようです。この作品の場合、母親が死に、子が生きているという状況は、フロイトの精神分析と逆転していますが、精神的な部分、つまり、母親が子に死を与えるという関係は精神分析と一致していると考えられます。



〔参考文献〕
ジャン=ルイ・ガイユマン「エゴン・シーレ-傷を負ったナルシス」2010、創元社
「Egon Schiele - Mortality」
http://egonschielelifeandwork.blogspot.jp/p/mortality.html

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